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山形地方裁判所米沢支部 昭和44年(ワ)56号 判決

原告

尾原信一

被告

加藤千三郎

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告の求める裁判

「1被告は、原告に対し、五四九、五〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から年五分の割合による金員を支払え。2訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告の求める裁判

主文と同旨の判決。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)  (事故の発生)

昭和四三年七月二四日午後一〇時一〇分ころ、山形県南陽市池黒四六五―二番地先路上に駐車中の原告所有にかかる自家用小型貨物自動車(山形4ぬ一八二三号)は、何者かの運転する被告所有の自家用大型貨物自動車(山形一す七五三二号)(以下本件自動車ということがある。)に衝突されて破損するという事故(以下本件事故ということがある。)が発生した。

(二)  (過失)

本件事故は、直接には被告所有の本件自動車を無断運転した何者かの何らかの過失により発生したものであるが、遡れば訴外高橋忠男が、本件自動車の運転手として、車両を安全に保管するため、車両のエンジン鍵について適当な場所にこれを所持し保管すべき注意義務があるに拘わらず、この義務を怠り昭和四三年七月二三日から翌二四日午後一〇時一〇分ころまでの間本件自動車を南陽市宮内温泉国道一一三号線南側工事現場に駐車中漫然本件自動車の運転席に右鍵を放置した過失により右車両を盗まれ無断運転されたことに基因するものである。

(三)  (被告の使用者責任)

被告は土建業を営んでいた者であるが、被告の被用者である右高橋忠男は被告の指示によりその職務として右のように本件自動車を保管中、前記過失により、車両を盗まれ無断運転されて事故を惹起する原因をつくつたものであるから、被告は右高橋の使用者として本件事故により原告の蒙つた損害を賠償する責任を負わなければならない。

(四)  (損害)

本件事故により原告の蒙つた損害は左記のとおりである。

1 原告が原告所有の本件自動車を購入した価格八五七、〇〇〇円より原告が右自動車を一六カ月間使用した期間の償却額三八〇、五〇〇円ならびに右事故後における自動車の下取査定額一〇七、〇〇〇円を差引いた三六九、五〇〇円

2 原告が本件自動車を本件事故後六〇日間使用しえなかつたことによる損害一八〇、〇〇〇円

(五)  (むすび)

よつて、原告は、原告の求める裁判欄記載の裁判を求める。

二  請求の原因に対する被告の答弁と主張

(一)  請求の原因(一)のうち、被告が本件自動車の所有者であることは認めるが、その余は不知。

(二)  請求の原因(二)のうち、訴外高橋忠男が本件自動車の運転に従事していた者であること、原告主張のころ、原告主張の場所に本件自動車を駐車させておいたところ、七月二四日夜本件自動車が何人かに盗まれ無断運転されたことは認めるが、同人に原告主張のような過失があつたことは争う。

右高橋は一定区画の工事現場に本件自動車をおいておいたのであるが、その際右自動車の鍵を同車内にしまつておいたまでである。同人がこの鍵を何者かに不法に使用されたのが同人にとつて不幸であつたに過ぎない。

自動車が何者かによつて盗み出された場合、保管上の手落ち自体を把えて運転自体の過失から生じた事故との相当因果関係を肯定し、保管上の過失により事故を生ぜしめたとして右保管者の不法行為を認めるべきではない。

(三)1  請求の原因(三)のうち、高橋忠男が被告の被用者であることは認めるが、被告が本件事故について使用者責任を負うとの主張は争う。

本件事故は、氏名不詳の何者かが本件自動車を運転して惹起したものであつて、被告の被用者である高橋の行為により惹起されたものでないのみならず、職務の執行中に生じたものではないから、被告は責任を負わない。

2  かりにそういえないとしても、被告は、右高橋を雇入れるについては、同人が正規の運転免許を有しており、運転技術も優秀であつて、誠実な人間であることをたしかめており、さらに監督についても常に鍵の保管等については厳重に注意しているから、右高橋の選任および監督について相当の注意をなしたというべきである。

したがつて、被告は使用者責任を負わない。

(四)  請求の原因(四)は争う。

三  被告の右主張(二(三)2)についての原告の認否

争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

自家用大型貨物自動車(山形一す七五三二号)(以下本件自動車ということがある。)が被告所有のものであることについては当事者間に争いがなく、〔証拠略〕をあわせると、昭和四三年七月二四日午後一〇時一〇分ころ、山形県南陽市池黒四六五―二先路上に駐車中の原告所有にかかる自家用小型貨物自動車(山形4ぬ一八二三号)が何者かの運転する本件自動車に衝突され、原告所有の右自動車の車両が破損するという事故(以下本件事故ということがある。)が発生したことが認められる。

二  高橋の過失

(一)  そして、〔証拠略〕をあわせると、本件自動車はいわゆる台車で建設業を営む被告方の営業の用に供されており、被告方の自動車運転手として雇われていた訴外高橋忠男(高橋が被告の被用者であることについては当事者間に争いがない)が主としてこれを運転管理していたこと、右高橋ら被告方の従業員は本件事故当時は連日南陽市宮内温泉南側空地において吉野川土地改良区の耕地整理工事に従事し、右高橋は本件自動車をブルドーザーの運搬のため使用していたこと、本件事故当日の一両日前から使用する機会はなかつたが、まだ作業が続いていたので事故当日の七月二四日は本件自動車を工事現場である右空地に駐車させたまま帰宅したこと(その頃高橋が右空地に本件自動車を駐車させていたことは当事者間に争いがない)、本件自動車にはもともとドアの鍵はなく、ドアは閉めるだけでロツクされる仕組になつているが、三角窓は留め金もなく、ロツクすることはできないようになつており、ロツクされたドアは三角窓から手を入れて内側からあけられるようになつていたこと、高橋は、工事現場に本件自動車をおいたまま帰るときは、通常エンジンキーをはずして持ち帰つていたが、この日は持ち帰るのを忘れたこと、そしてドアは閉められロツクされていたけれども、エンジンの鍵は運転席の内ポケツトに入れたままになつていたこと、七月二四日夜、本件自動車は何人かによつて盗み出され無断運転されて、本件事故が惹起されたこと(七月二四日夜、本件自動車が何人かによつて盗み出され無断運転されたことは当事者間に争いがない)、なお、本件事故現場と前記駐車しておいた場所は約三〇〇メートル位しか離れていないことがそれぞれ認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、右高橋忠男には、本件自動車の三角窓があくようになつているのに本件自動車の運転席の内ポケツトにエンジンキーを入れたまま帰宅したという点で自動車の管理上過失があつたとみることができよう。

(二)  しかしながら、そうだとしても、右管理上の過失が本件事故を発生せしめるについての過失といいうるであろうか。

おもうに、不法行為成立の要件としての過失は結果発生についての予見可能性、換言すれば過失の有無が問題とされている行為と結果発生との間の相当因果関係性を前提とする。

ところが、本件事故は、原告も主張するように、盗難にあつた本件自動車の無断運転者の何らかの過失によつて生じたことは明らかであり、事故の直接の原因は右無断運転者の過失である。そして、かりに前記管理上の過失と本件自動車の盗難という結果との間には相当因果関係があるとしても、車両が盗難にあつた場合にこれを運転する者が事故をおこすとは限らず、事故を惹起する可能性が大きいとはいい難いから、本件の場合も、右高橋に事故発生の予見を期待することは無理であるとみるのが相当である。したがつて、同人の前記管理上の過失と何人かが盗難車である本件自動車を運転して惹起した本件事故との間には相当因果関係があるとみることは相当でなく、右管理上の過失は、本件事故との関係での過失とはいいえない。

そうすると、右高橋忠男の原告に対する不法行為は成立しないことになる。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというほかない。

四  むすび

よつて、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小笠原昭夫)

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